『ロジカルスピーキング』誕生の裏側
『ロジカルスピーキング』誕生の裏側

「英語で考える」を軸に、スピーキング力はもちろん、ライティング力も鍛えることができる学校向けオンライン英会話レッスン『ロジカルスピーキング』。ご採用校からは教材を高く評価いただき、「論理・表現」や「探究学習」の授業の一環としても活用いただいています。今回は、開発当時から現在まで企画構想に携わる福江、初期編集メンバーの阿部・田中、現編集担当の多田の4名が、開発の裏側や、こだわりや思いを語りました。

『ロジカルスピーキング』とは

『ロジカルスピーキング』は英語で論理的に「話す」ための「型」を学び、その「型」を用いて、「大学に行くべきか」といった身近な話題から「海洋プラスチックごみをなくす方法」といった社会課題まで、オンライン英会話とワークブックによって英語で論理的に自分の考えを伝える力を磨いていきます。現在、高校中級レベル以上を対象にした「スタンダード」と、上級以上を対象にした「アドバンスト」に加えて、社会課題に特化した「社会課題編スタンダード」を展開中です。

生徒が持つ「英語を話す」ポテンシャルを最大限発揮できる教材を

単に英語で会話をするだけでなく、ロジカルな思考力も鍛えるオンライン英会話の仕組みを作り上げるのは至難の技でした。「『型』の練習ができる教材を作ろうというのが、発端だった」と、福江は企画のスタート時を振り返ります。

教育開発事業部 英語教育事業室 室長 福江友樹

福江:「日本の生徒は英語を話すポテンシャルはあるので、どのような順序で、どういった要素を話したらよいのかという『型』を理解すれば、その能力を最大限に発揮できるはずなんです。その上で、会話の中の『WHAT』の部分を、もっと鍛えたい。そのためには、発想力を豊かにするための『引き出し』を増やし、『自分の意見はこうである』と主張できるようになることが重要ですよね。自分の意見を言葉にする力が鍛えられるオンライン英会話レッスンとはどのようなものか、内容の検討が進んでいき、語彙や文法も強化するようなワークブックも作ろう、ということになりました。」
企画段階で、既に学研のオンライン英会話を導入している高校の授業を多数見学。学習指導要領改訂や大学入試改革の議論の中で重要視されていた英語の「4技能(読む、聞く、話す、書く)」の評価にも対応できる教材を作るべく、検討が進められました。
田中:「学校を見学して印象的だったのは、普段は控えめな生徒が、オンラインレッスンではイキイキと話していること。授業を見学して、オンライン英会話の教材を作ることの意義を実感できたのは、大きかったです。生徒のみなさんが興味のあるテーマについて会話を積み重ねる中で、ジワジワと力がついていって、各種試験で課されるスピーキング問題にも対応できるようになるような教材というイメージを共通認識として持ちながら、大学入試の英作文の出題傾向なども分析していきました。」
福江:「言語も文化的背景も異なる人々が協働して、新たな価値を創造していかなければいけないこれからの社会において、自分の意見を裏付ける根拠を示しながら、英語でスマートに話す能力は必須ですよね。大学入学共通テストへの英語民間試験の活用が延期されたにもかかわらず、高校の先生方から前向きな声をいただきましたし、採用いただける学校も増え続けています。」

試行錯誤の連続だった教材作り

その後、具体的な教材作りが進み始めましたが、学研でも初挑戦となるオンライン英会話とワークブックが連動した教材とあって、試行錯誤を繰り返したと、ワークブックの編集を担当した阿部は振り返ります。
阿部:「高校の先生方とは、基本的な部分から様々な角度で話し合いを重ねました。例えば、実際に授業に組み込むには、全何回で構成すれば使いやすいのか。また、50分間の授業の中で、テーマに関する事前準備とオンラインレッスン、事後フォローを何分ずつで設定すれば効果的なのか。そして具体的な授業イメージがある程度見えてきたところで、ワークブックのあり方も精査していきました。大学の教授、中高の先生方、学研の辞典や参考書の編集者といった様々な人のノウハウを集約していくような、途方もない作業でしたね。」
福江:「オンラインレッスンをより効果の高いものにするためにも、事前学習と事後学習で使うワークブックは丁寧に準備する必要があり、入試に備える教材としてもしっかり使えるものにしたいという狙いもありました。」
阿部とともに構想を練った田中は、「正解」のない問いに対応できるワークブック作りの難易度の高さを、こう語ります。
田中:「『自分の意見を述べなさい』という問題に、『正解』があるのはおかしいじゃないですか。かっこいい言い方になるけれど、『正解』は自分の中にしかない。私は普段、市販の参考書作りに携わっていますが、市販のテキストでは一番作りにくいジャンルだな、と頭を抱えました。『ロジカルスピーキング』は、オンライン英会話とワークブックが連動している教材です。英会話の講師がある程度の模範は示しますが、テーマと生徒の英会話スキルによってはそこから外れてフリートークをすることもできる。学習する側に合わせて伸びていくことができる、ストレッチ力の高い教材にするにはどうしたらいいか考えて、思考のヒントになるような回答例や答弁集、テーマについて深堀りするコラムを付けることにしたんです。それによって、生徒の思考の幅を広げることも意図しています。」
阿部:「コラムを執筆したのは、学研で社会科の参考書を制作している編集者。私たちも、テーマにまつわる書籍を可能な限り入手して、研究しました。スペースが許す範囲で参考文献も掲載していますが、こういう部分は学研ならではの人脈とテキスト作りのノウハウが活かされていると自負しています。」
オンラインレッスンの相棒となるワークブックの存在は、高校の先生にとっても生徒の学習効果の「見える化」につながったといいます。
田中:「オンラインレッスンの時間は限られていますから、『こう言いたかったけれど、表現がわからなかった』『会話の時間が終わってから、言いたいことが浮かんできた』ということも当然発生します。ワークブックはそういったことも書き込める作りになっているので、それを読むだけで先生も生徒たちの習熟度を把握することができるんです。同時に生徒にとっては、自分の疑問や考えをアウトプットするトレーニングになる。オンラインレッスン後に学校の先生と一緒に疑問点を解決した上で、ワークブックに文章としてまとめることを繰り返す中で、スピーキングに加えてライティングの能力が伸びたという報告も、学校の先生方からいただいています。」

英語に限らない思考力を育む「社会課題編」

テーマ選定にも様々な工夫が凝らされています。教材で扱うテーマについては、企画段階で「高校生が興味を持って考えられる」内容や、「高校生に考えて欲しい」内容を、教科書等で扱っている分野を参考にピックアップ。高校生が“自分ごと”として捉えられる身近なテーマは「スタンダード」に、より社会的な課題や思考の難易度が高い題材は「アドバンスト」に分類し、制作を進めていきました。そして、「アドバンスト」への高い評価を受けて作られたのが、「社会課題編スタンダード」です。
多田:「『スタンダード』と『アドバンスト』で扱っているテーマは、「agree/disagree」の2択で自分の考えを述べる活動がメインとなっていますが、学校側から『もう一歩進んだものを』というニーズが出てきたんです。社内でも、答えが一つではない課題を扱う教材をトピック別に作ってみたらいいのではないかという議論が出ていたので、まずはSDGsなどのテーマを扱う『社会課題編』を作ることになりました。ただ、英語で社会課題を論じる際に語彙が難しすぎると、生徒がアウトプットする段階までいけないので、論じて欲しい社会課題の選定と使用英語レベルのバランスには気を配りました。

『社会課題編』では、事前学習での社会課題に関する知識や英語表現のインプットとレッスンでのスピーチに終わらずに、その後のディスカッションをより活発にしたいという意図もあります。『スタンダード』と『アドバンスト』で土台ができているからこそ、オンラインレッスンとワークブックの役割分担もより効果的に構成されています。QRコードで、テーマで扱った社会課題の追加の情報を得ることもできるので、より社会課題に関する理解を深めたり、情報を自分の意見に取り入れたりと、いろいろな使い方をしていただきたいです。」

小中学生事業部 英語教育企画室 教育クリエーションチーム 多田香織

田中:「与えられた課題について自分の意見をまとめてアウトプットする力は、英会話だけでなく大学入試の小論文や面接の役に立ちますよね。先ほど話題に出たコラムもそうですが、様々な社会課題に対する知識も得られるし、一般にその課題がどのように議論されているのかということを知ることもできる。レッスンで学習が終わるのではなく、その先に発展させていくことができる教材になっていると思います。」
オンラインレッスンにあたる講師の指導にも、これまでのオンライン英会話コース以上に準備が必要だったそうです。
多田:「生徒がどのような解決策を発言してくるか分からないので、講師はとても高い対応力が求められます。生徒がどんなボールを投げてきても、彼らが消化不良にならないよう講師が導かないといけない。その上で25分というレッスン時間の中でスピーチをブラッシュアップして型通りにまとめないといけないので、講師のトレーニングはとても難しかったです。」

社会に出るときに必要な能力を鍛える教材に

最後に、「ロジカルスピーキング」の未来について、今後の展望とともに、開発者としての願いを聞きました。
福江:「『トレーニングをしたことで、英語が話せるようになった』という体感を、大きな自信につなげてほしいというのが、教材を作っている我々の根本にある願いです。極論を言えば、英語でも日本語でもいいので、いろいろなことについて考えて発話するきっかけになってほしい。そういう意味でも、基本と発展という縦の広がりだけでなく、アートやアニメ、カルチャーなど、扱うジャンルも広げていけたらと期待しています。」
多田:「今後については、『社会課題編アドバンスト』が制作中で、科学に強い学研ならではの『サイエンス編』も具体的に検討しています。さらには、『スタンダード』の基礎となる、初級レベル向けの『ベーシック』のような展開も考えています。『社会課題編』の教材では、自分で課題について深く調べて、解決策をアウトプットする作業が求められますが、これは大学や社会でも絶対に必要になってくるスキル。何かしらの課題を分析して、自分の意見を表明するクセを、『ロジカルスピーキング』を通して付けてもらえたらうれしいですね。」
阿部:「単に、英語の語彙を知っている、文法を理解しているというだけでは、『英語力が高い』とは言えないですからね。言語はコミュニケーションのツールですから、自分でアウトプットする、人前で話す能力を伸ばすためのトレーニングとして、最大限活用してほしいです。」
田中:「筆記問題で鉛筆が止まってしまったり、スピーキングのテストで黙ってしまったり。そういう『空白』や『沈黙』が埋まっていく手応えを感じることができる教材になったのは、大変うれしく思います。成人年齢が18歳に引き下げられましたが、それはつまり社会が18歳の生徒に対して、社会課題への高い意識を持って決断する力を求めているということ。大学受験に合格することは大切だし、進学した先に待っているアカデミックな世界もすばらしいものがあるけれど、それと同時に今の高校生には社会への参画が喫緊の課題として求められているので、社会の問題を自分ごととして考える力をつける教材として、活用していただきたいです。」

制作メンバー紹介

ロジカルスピーキング制作委員会

ロジカルスピーキング制作委員会
教育開発事業部 英語教育事業室 室長 福江 友樹(右上)
小中学生事業部 英語教育企画室 教育クリエーションチーム 多田 香織(左上)
小中学生事業部 学参・辞典編集室 英語・語学チーム 阿部 武志(右下)
高校教育事業部 教材編集室 シニア・プロデューサー 田中 宏樹(左下)